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千葉地方裁判所 昭和49年(モ)249号 決定 1974年5月21日

申請人 株式会社アイチ

右代表者代表取締役 森下安道

右申請代理人弁護士 山分栄

右同 大浦浩

右同 野島潤一

被申請人 サンポール株式会社

右代表者代表取締役 松本孝

主文

本件申請を却下する。

理由

第一申請人の申請の趣旨

被申請人所有の別紙物件目録記載の不動産について、申請人のため、別紙登記事項目録記載の根抵当権設定仮登記を命ずる。との決定を求める。

第二申請人の申請の理由

(一)  申請人は、被申請人に対し、現在、金四〇、〇〇〇、〇〇〇円の貸金債権を有している。

(二)  被申請人は、昭和四九年三月一一日、申請人に対し、右貸金債権を被担保債権として、被申請人の所有する別紙物件目録記載の不動産(以下、本件不動産という。)につき、別紙登記目録記載のとおりの根抵当権を設定する旨を約した。

よって、申請人は、右根当権設定契約により生ずべき申請人の根抵当権者としての優先的地位を確保するため、本件申請に及んだ。

第三申請人提出の疎明資料≪省略≫

第四決定理由

一  疎甲第一号証(根抵当権設定契約書)には、申請人を根抵当権者、被申請人を根抵当権設定者及び債務者として、本件不動産その他につき、根抵当権設定契約をした旨及びその契約書の作成年月日として昭和四九年三月一一日との記載があり、同号証の被申請人名下に押印の印影は、疎甲二号証(印鑑証明書)により認められる被申請人の登録済の印影と同一のものであると認めることができる。

二  しかし、疎甲第一号証には、申請人及び被申請人の記名押印のほか、申請外東洋冷食工業株式会社代表取締役岡崎良次の記名押印があり、かつ、被担保債権の特定につき何も記載がなく、また、契約書末尾に極度額合計金一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円との記載があるほか、本文中の極度額の記載欄には、何も記載がない。さらに、疎甲第二号証の作成年月日は、昭和四九年二月一三日であり、これは、申請人が本件根抵当権設定契約締結の日として主張する日の約一か月前である。

三  そこで、疎甲第一、二号証の右のような記載又は記載のないことに照らせば申請人主張の本件根抵当権設定契約の締結には何らかの事情が存するのではないかと疑われ、疎甲第三号証(報告書)には契約締結の際の具体的事実については何の記載もないのでこれによっても右の疑問を解明することはできない。当裁判所は、申請人に対し、右疑問点につき解明を促したところ、現在まで、これを解明するに足りる疎明資料を提出しない。

なお、当裁判所が、本件申請書を持参した者から聴取したところによれば、申請人及び被申請人間には、前記申請外会社をも債務者として、本件とは別の取引関係が以前にあり、疎甲第一号証は、その取引関係につき、根抵当権者設定者、債務者、作成年月日及び物件の表示の各欄に何の記載もしないまま、前記三者の記名押印により作成され申請人に差入れられたものであり、その取引関係はその後事故なく決済されたので、申請人は、被申請人に対し、疎甲第一号証を返還したが、本件根抵当権設定契約に際しては被申請人が印鑑を所持していなかったため、便宜、以前に作成した疎甲第一号証を流用することとし、これに根抵当権者、設定者、作成年月日及び物件の表示を記載したとのことであり、また、疎甲第二号証も、以前の取引関係のために交付を受けたものを本件のために流用したとのことである。それが事実であれば、疎甲第一、二号証の記載についての前記の疑問は一応解消されるが、そうすると、本件根抵当権設定契約については、疎甲第一、二号証の証拠価値は著しく低いものとなり、これを補完して右契約の締結を認めさせることになるべき証拠の重要な部分が、人証又はそれに代る報告書等(以下、人証等という。)とならざるをえないことになる。ところが、申請人の提出または援用する人証等については、被申請人に対し反対尋問の機会を与えない限り、その証拠価値は低く、申請人は、かかる反対尋問の機会を与えてもなお人証等を取調べることまでを当裁判所に請求しない。

四  そうすると、仮登記仮処分には被申請人の被るべき損害担保としての保証がないこと、被申請人からの不服申立ての方法がなく、仮登記の抹消のためにはその抹消登記手続請求訴訟を提起せざるをえないこと、申請人の権利の確保のためには通常の仮処分による方法が残されていること等を考えれば、前記疎明資料によっても、なお本件申請の理由につき疎明があるということはできないことになる。他にこれを認めるに足りる疎明資料はなく、疎明に代えて保証を立てさせるのも相当ではない。

五  よって、本件申請を失当として却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 江田五月)

<以下省略>

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